ひらログ

おひまつぶしにどうぞ。

二重拘束

「あなたが社会に適応しづらいのはもしかしてASDのためではないか」と家族からたずねられた。その問いかけ自体に対しては、不愉快も驚きも覚えなかったが、やりとりをくりかえすうちに、ことばの通じあわなさばかりが判然として、壁に頭をぶつけるようだった…

なにもしたくなかった日

なにもしたくないので、きのうは夕方までベッドでうずくまっていた。転職サイトにへばりついていたのと、風邪が副鼻腔炎に転じたのとで、疲れているのだと思う。「何もしたくない」と検索窓に入力すると、「感情とは無関係に行動できるようになりましょう」…

自由のよすが

思想および言論の自由は封殺されているが、経済的には申し分なく豊かな社会、またはその反対、暮らすならどちらがましか、というような質問を高校の授業中に投げかけられた記憶がある。クラスメイトの多くは前者と答え、教師を驚かせた。そのなかに私もいた…

ハギビス

停滞した一週間だった。きのうの、雨戸をしめきった、LEDのしらじらと光る部屋のよどんだ大気、あれが目の奥や四肢の先にもつまっていそうな感じがする。花粉症がおさまったところで風邪をひいた。会社から業務上必要らしい尋問の電話がかかってきて、「締切…

産婦人科にて

すこぶる寝つきがよいし、どこでも寝られるから、産婦人科の待合室ではたいていまどろんでいる。目を開けていてはいらだつ。けれどいらだつのは好まない。血のにじむささくれを見つけたようで、あとから悲しくなるので、あらかじめ眠っておく。 これほどの空…

ふしぎ

「いわゆるナンパに遭遇した経験がある」と、月日を隔てたかのような過去形に封じ込めてひとつ前の記事を書き上げたものの、その「いわゆるナンパ」に、私が最後に巻き込まれたのは、ついきのうのことである。書きつけたところで溜飲は下がらず、最愛の宇宙…

侮辱

友人たちから、痴漢に遭ったとか、アルバイト先の客につきまとわれたとかいった、性犯罪被害の経験を打ち明けられることがある。話し相手に私を選ぶのは、当人の受けた傷を背負ってみせたかのようにおおげさに嘆いたり憤ったり、あるいは、「あなたに魅力が…

取り立て屋へ

行きつけのカフェにて「価格改定のお知らせ」を見る。どうやらほんとうに消費税は上がるらしい。取り立てられたぶん、国民になにがもたらされるか。いかに還元されるか。そのあたりは不明瞭だが、ごく近い将来の増税だけは、確定した事実であるらしい。 老後…

なんでも

駆け出しながらチップチューンの名手である最愛の宇宙人に誘われ、都内のライブハウスを訪れた。大気をびりびりとふるわせ、腹のなかまで流れこんでくる音。刺激に立ちすくんだのははじめのうちだけで、いつしか私たちの胴やかかとは浮かれてちいさく踊って…

わからない

プログラミングの勉強がはかどらない。一段落してからこれを書こうかとも考えたが、たまりかねて、吐きだす。湧きあがることばたちを内にとどめたまま、新しい概念に接して、解きほぐしたうえで摂取するという大仕事にいそしめるほど、私は器用ではない。 私…

ITZY

九年前に発表された、当時(あるいはいまでも)日本一の知名度を誇っていたアイドルグループのミュージックビデオを、知人は「企画もののアダルトビデオのようだ」と評したことがある。視聴したところ、売り手のべとついた思惑を見るようで、いやな感じがし…

きれいな手

シルバーの映える、白くまっすぐな指をもつ友人と、たわむれに指輪を交換してみたところ、彼女の薬指に私のピンキーリングが嵌まった。私の手は、指の第二関節ばかりが肥大し、爪は横長といってよいほど短くつぶれ、筋肉質ながら手触りはぐにぐにとやわらか…

赤の食卓

保守論壇の月刊誌で埋め尽くされた書棚の鎮座するリビングにて夕食をとるとき、実家を出るべきだという考えは生理的欲求にも似てきて、単に生活の手段として就職を選んだのは不誠実きわまりない失策であったが、いちどはそうせざるをえなかったのだから、無…

なかま

もはや私は文学部生ではないのだから、娯楽としての読書にふたたび親しみ、個人的な体験や素朴な感想文をいたずらに書きつけてもよろしかろう。「コンビニ人間」を読み、思い出したことがある。私には「なかまはずれ」に苦しんだ経験というのはほとんどなく…

休職

「プライベートでなにかありました?」「死にたいって思うことあります?」「どうしてこうなっちゃったんですかね。どうしてだと思います?」矢継ぎ早に浴びせられる、唐突で不躾な質問、必要な事務手続きとはいえ、あまりにやりかたのまずい訊問。休職に入…

透明人間

私はバイセクシャルであることを友人たちに公言している。しかしまだ会社では言わない。そして言ってみる前に退職するものと思われる。あれはまだ春だったか、「推しの俳優」や「イケメン」の話で周囲が盛り上がったときに、女優さんの名前しか思いつかない…

私は自由を渇望する

この国のことを考えると悲しくなるばかりだが、「考えたところでしかたない」というささやきに従ってものを考えなくなれば、今後とも玩具のごとき扱いを甘受するのみであるから、ここでなにが起きているのか、考える。めまいがする。やめたくもなる。なお考…

アラーム

おかげさまで、淡々と会社に行けるようになりました。もう、いやでいやで、いますぐにでもやめたい、という感じではありません。診察室にて、そのように現状を伝えたところ、淡々とですか、と医師は微妙な笑いかたをした。ほかに言うこともなくて、私も笑っ…

朝食を

先週、吐き気に耐えながら欠勤の連絡をし、心療内科を探したのと同じカフェで、カプチーノとクッキーを平らげてこれを書き出した。午前中に空腹を感じたのも、朝食らしきものを摂ったのも、ずいぶん久しぶりだ。夏休み以来か。早くも最悪の状態は脱したらし…

なんのための治療か

休暇はほんのいっときの解放をもたらすだけだ、と、夏休みを終えて嘆息した。それから「いまの状態のまま、たとえば転職したとしても、そこでまた同じ問題に直面する可能性が高い」と医師に宣告された。すなわち、現在の私には、休職も退職も解決策たりえな…

まじめ

適応障害のことを聞いた母は、納得したというようすで、あなたはまじめで責任感が強いから、と返事をした。すかさず私は反論を試みていた。さっさとやめたいとこぼしてばかりだし、重圧も自己嫌悪も感じていないつもりだけれど、と。そういうことじゃなくて…

投薬

適応障害、軽度のうつ症状、と診断された。その名がいかなる意味をもつか、私に正しく把握するすべはないが、心療内科医がそう言うのだから、そういうことらしい。とにかく会社を休みたいのですが、休むのもこわいです、としどろもどろになりながら、心身に…

自由人

男らしいと言われたことがない、と私の好きな男は言った。そうだろうねと私は返事をした。男らしさなるものを誇示しないこの男を、ものしずかで、やや華奢で、芸術をいつくしむこの人を、私は愛しているから。私も、女らしくないと評された経験のほうが多い…

思うだけ

私は徹底した地球人ぎらいではないから、他人たちについて、他人たちがそうするように、性的魅力を感じたり、心身の不調を心配したり、差別的「冗談」をおもしろがる神経の持ち主であったかと落胆したり、身勝手にもする。ただし、そのことを当人に表明する…

トリップ

休暇に入ってから、おもしろいほど、目つきが違う。青黒いくまは消え、上まぶたのむくみだか腫れだかも引いた。ひさしぶりに全貌を見せた黒目は、こころなしか輝いている。大げさではない。私以上に私の体調を心配する母が「すっきりしたね」と言ったのだか…

海を聴きに

一〇連休に入るのがうれしくて、海を聴きにか、海で眠りにか、退勤後にそのまま出かけた。家族には「海を見てくるから遅くなる」と連絡したが、このあたりのは黒くよどんだ水たまりみたいなもので、観賞には適さない。そもそも私は海がとりたてて好きではな…

私は貧しい

私の家はじゅうぶんに豊かだ。私は、習いごとをいくつも経験し、早いうちに携帯電話を与えられ、毎年のように家族旅行をし、学費を一円も払わずに私立大学を出た。では、この私ひとりではどうか。ひとりで暮らしてゆくとしたら、どうなるか。手取りは二十万…

湯宿にて

温泉施設の食事処にてこれを書いている。はちみつレモンサワーの氷はいまにも溶けきりそうだが、水位はまだ半分を切らない。私は下戸で、飲み残しを引き受けてくれる人は、きょうはない。ひとりで来た。ひとりで食べてもうまいものはうまいと感じる体質なの…

家出

このごろ私の様子がおかしいと母は言った。雰囲気は暗いし、口調はどこかきつい、仕事がつらいのか、と心配そうにしていた。私は、平生の態度について申し訳なく感じていること、仕事はとことん向かないからやめたいこと、いやなところしか見せられないのが…

二三歳の自己分析

一定の場所に一定の時間、拘束されることを私がひどくきらっているのは、思えばいまにはじまった話ではない。アルバイト、通学電車、講義のあいだの空き時間、あらゆる会合の予告なき延長、式と名のつくものすべて、いずれも耐えがたかった。アルバイトは、…