ひらログ

おひまつぶしにどうぞ。

ほんとうは声をかけたい

 仲のよい人が同じバスに乗り込んできたのに気づきながら、声をかけませんでした。おとといのことです。なにごともなく逃げおおせたので、一方的に仕掛けたかくれんぼは、私の勝ちとします。具体的な位置関係は把握できず、しかし相手が後方に座っていることだけはたしかであり、つまりこちらが劣勢でした。すでにばれているのかもしれない、と、どきどきしながら終点まで息をひそめ、降り口にて私が後ろに回ったところで肩をそっと叩くと、思いのほかびっくりしてくれました。

 ごく親しい人をたまたま見かけても、ほとんど声をかけません。ひとりの気分でいるのにだれかがいるという不測の事態を、いち早く収束させるためです。挨拶をするという予期せぬ行動をみずから重ねて、しくじって混乱を招くことは避けたいのです。

 こちらから声をかけないとはいえ、声をかけてもらうのは嬉しいものです。交渉に踏み切る以前の煩雑な問題(なんと言ったらよいか、どんな顔をしたらよいか、といったもの)が発生する間もなく、突如として降りかかった事件には対処のしようがないためでしょう。喜びを瞬発的に表すのも不得手な私は、会った時間帯にかかわらず間の抜けた「おはよう」をお返しします。