ひらログ

おひまつぶしにどうぞ。

すきま

 麦茶を取るついでということにして、冷蔵庫のなかに頭をつっこんで涼み、警告音に叱られるのが、中学生くらいまでの夏休みの恒例行事でした。扉をしばらく開けっぱなしにしていると、知らせてくれるのです。長年のつきあいで鳴らないぎりぎりのタイミングを体得した現在は、だましだましごきげんを取りながら、冷気を盛大に漏らしています。

 熱帯夜にのぞきこむ冷蔵庫のように、ひんやり、ひっそりしたところでは、ふしぎと呼吸が楽になります。日当たりの悪い昇降口や、屋上につづく階段が、小学校のなかでは好きでした。無人の音楽室には、よくピアノを弾きに行きました。その後、中学校、高校と進むにつれ、教室はだんだん過ごしやすくなって、奥まった場所に居つくことは少なくなったと記憶しています。

 それでも、ほかと違う空気の流れているすきまを探したがる習性は失われていません。人と連れ立って海に出かけた日を思い出します。「あっちは人がたくさんいて楽しそうにしているからやめておこう」などと、みずからの心に従って歩くと、砂浜を通り抜けて漁船の停泊場にいました。凪いだ夜のことでした。私たちはじっと黙って、かすかなさざめきに浸っていました。ヤドカリかなにかになったみたいな散歩でした。