ひらログ

おひまつぶしにどうぞ。

笑顔の真顔

 「真顔が笑顔の人っていいよね」と妹が言っていました。辞書の〈逆説〉という項目に、例文として載っていてもよさそうな至言です。なにを考えているわけでもない、だれに向けているわけでもない、ふだんの顔がかすかに笑っている人のことをさすのでしょう。「真顔が笑顔」とは、口角のニュートラルポジションのきゅっと高く上がった状態です。

 交差点の向こうや隣のホームドアの前に、真顔が笑顔の人を見つけると、少しのあいだ目が釘づけになります(「街中で出くわす美女 横目でキャッチ」するだけですますロックバンドなどは相当な手だれです)。きゅっと締まった唇はたまらなく魅惑的で、道端の猫がこちらを向いて立ち止まったときの興奮と緊張に近いひらめきが通り過ぎます。それから、疲れを隠そうともしないおのれのたるんだ口角のことを意識して、内心はあわてて、しかし緩慢な動作で、やっと引き上げるのです。

 機嫌がよいときに「怒ってる?」と訊かれてしょげることは、このごろめっきりなくなりましたが、かわりに「にやにやしてる」と指摘されるようになりました。憧れのいつもにこにこに、近づいたのか遠ざかったのか定かではありません。