ひらログ

おひまつぶしにどうぞ。

あたためて

 おかずしかり、こころしかり、ゆっくりあたためたものほど冷めにくいと決まっています。これは起伏に乏しいわが人生から導いた経験則です。電子レンジから取り出した味噌汁には、すぐに部屋のさびしい温度がうつってしまいます。「冷めないうちにどうぞ」という気遣いに応えられず、猫舌かつ食べるのが遅い私はときどきせつなくなります。猫舌とはいえ熱いのは好きなのです。たったひとくちぶんに、これでもかとじれったく息を吹きかけるのを、ほんとうはずっとしていたいのです。

 あたたかさというのは性質ではなくて状態なのだと、路傍にて、食べるのが遅いせいで耳たぶほどまで冷ましてしまった肉まんが教えてくれました。「あったか〜い」のボタンに囲まれたはちみつレモンもミルクティーも、かりそめなのです。あれらも、あたたかいうちに飲みきれたためしがありません。

 私の指先は、いつでもかたくなに冷たく、はじめから冷たいものとしてあるかのように錯覚するほどです。恒温動物としてのはたらきを放棄した私のからだは、熱をみずから発することをあきらめ、ゆっくりあたためてくれる巣を外に求めることにしています。祖母の手のやわらかさに、はっとした子どものころが、ふとよみがえってきました。