ひらログ

おひまつぶしにどうぞ。

はみ出しもの

 大学の喫煙所が縮小されたそうです。「故郷を荒らされた勇者みたいな気持ちになった」という友人のつぶやきを読んで知りました。用のない私には、立ち止まって目を凝らしてもまるでわかりません。そこを突っ切って教室に向かうごとに、以前からこんなものだったような気がしてくるくらいです。

 あらためて観察してみて気づきました。いつ通りかかっても、かならず吸い殻が白線をはみ出して散乱しています。反骨精神の燃えかすと見えて、あはれを誘う眺めです。吸い殻ばかりか、人もはみ出しています。おもしろいほどきれいにまばらになって、他人どうしが他人どうしの顔をして小さくなっています。おのれの領分を守り、かつ隣人のそれを侵さぬよう、こころもち肩をすくめて孤独な勇者たちは立っています。

 いつのまにか上のほうで定められた約束を破っているとはいえ、あの喫煙所は無法地帯とはことなるように見えます。煙草をのむ人にしかわからない、そこにふさわしい所作や距離感を心得て、たぶん彼らは砂利を踏みしめて無口になってうつむくのです。あれほどさびしげでつつましい人々を、ますます狭くなった区画のなかに強いて押し込めることを私は望みません。