ひらログ

おひまつぶしにどうぞ。

こちら女湯

 なぜここにおっぱいがあるのか、ふとわからなくなって、疲れて、狭い浴槽でひとり眠りこけた経験のある人はほかにそれほどいないでしょうから、こんな冒頭からいずれ小説を書こうとあたためてあります。私は自分の身体をおおむね肯定し、甘やかすのですが、ラーメンを食べに行くよりは頻繁に、取り決めを覆して厭います。

 女子更衣室には、空想の世界で消費されるような浪漫のかけらもありません。汗より強烈な、人工物の混ざりあったにおいに息を詰まらせながら、早く出ようともぞもぞしていました。窓をふさいだ引き戸の奥へ通されるのは、わずらわしく、また、心安くもありました。女性の身体の持ち主である私は、女の子の仲間に入るほかなく、入ることができると言ってもよいのでした。

 私は女性です。黒髪を長く伸ばし、唇に血の色をさすのを好み、だれにも咎められず、まれに称讃されます。楽器店に入るときの気軽さとときめきをもって、花やレースをあしらった下着を眺めます。女の子が挨拶がわりに抱きついてきます。異性であるがゆえに持たれる感情と奪われえない地位をも知っています。それらすべてをなげうつことなど、さらさらできません。ただ、せめて、いくつもの不文律を破ってやりたいのです。