ひらログ

おひまつぶしにどうぞ。

なんとなく、クリティカル

 私は性根がむっつりしていますから、記憶をもっぱら占有したがり、秘密をかたく守る人を愛します。ここに残してゆく日記らしきものは、再読すればかならず覚える羞恥に耐えうるよう、まろやかに調理した上澄みにほかなりません。砂抜きも加熱も済んでいます。悪くはない口当たりを保つこと、あわよくばそれぞれの記憶にある海をたぐり寄せながら咀嚼されることをねらいとしており、うねる轟音やめまいとともに思い出す私だけの浜辺には、だれも辿り着かないように書いてあります。

 饒舌な、あけすけな小説は好みません。宿題になっていた短編を読んで確信しました。あのカタログめいた、乾ききった明るさの向こうに、なにも見出せなかったのです。「私のすきだった時代は終わりました」とぶざまな泣き言を出席カードに並べて、昭和文学史の講義とは来週でお別れになります。

 わがこころをわしづかみにして離さないものは、色彩や刺激ではなく、おとずれる沈黙の余白です。舞台あるいはスクリーンの暗転が、いかに観客を焦がれさせ、語らないことによって物語をふくらませることか。私はそのような、読む人の内側に響く、少なくてゆたかなことばを発したいのです。

関連記事

www.kodahira.com