ひらログ

おひまつぶしにどうぞ。

続・わたし主人公

 私はひとりでに起き上がったのでは決してありません。多くの手を煩わせて布団を這い出た、というのが実際のところです。選ばなかったほうに対する未練と、未知へのおそれを、押し込めてやり過ごすことはできそうにありませんから、それらと見つめあって別れを告げるために、私にはなにもしない時間が必要でした。私の愛する人たちは、立ち止まってもしかたないと励ますことはせず、気の済むまで私をくよくよさせておきました。底に足がつけば、再びしれっと歩き出すとわかって、沈みゆくのを放っておいてくれるのでした。

 それから、また外に出かけはじめると、持ち帰りたくなる発見に恵まれました。成人したての妹が私よりずっとお酒に強かったこと、自分のお墓はいらないと思っていると話したら驚かれたこと、卒業生が合格の報告に来たこと。すべての新しい知らせが、私を笑わせ、あるいはあたためてくれました。クレイジーケンバンドは伝説ではなくたしかに実在したこと。光の化粧をし、恋人たちが展望台を埋めつくしても、内部から見上げれば東京タワーはひたくれないの無骨な鉄塔であること、その無骨さがたまらなかったこと。このいとしき日々を今後とも占有するために、私は四季報をめくります。

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