ひらログ

おひまつぶしにどうぞ。

 ひとりで出かけるのが好きです。なかでも、川沿いを歩き、家並みを見上げ、くらくらするのが最近の趣味です。高層マンション、光の洩れる無数のガラス窓、その密集した小さな細胞のひとつひとつに、たとえば味噌汁と焼き魚があり、お気に入りのテレビ番組があり、脱ぎ散らかしたワイシャツがあるということは信じがたいのですが、それでもたしかにあの部屋たちのすべてに生活は営まれているらしく、その事実に驚いてめまいを起こしかけます。「ぜんぶに人がいると思うと気が狂いそうにならない?」と人に話したら不思議がられました。

 むやみに歩きつづけ、暗がりに踏み込みそうになれば家路へと引き返し、すると見慣れた玄関灯が煌々と待ち受けており、それを確かめると心安く、とたんに眠くなります。無数の窓の明かりと、うちだけは違って見える、だれもがそんなふうに思っているのでしょう。

 ひとりで出かけるのが好きな私は、しかし家にひとりでいるのに耐えられません。家にひとりにならないために、ひとりで寄り道して帰りを遅くします。高架下を抜け、ホテル街を素通りし、歩きながら見つけたあらゆる窓の向こうに、まばたきや熱い息がひしめいているらしいことを認め、くらくらして帰ります。