ひらログ

おひまつぶしにどうぞ。

時を止めて

 広い交差点の対岸を埋める人の群れが、横断歩道を私がほとんど渡り切るまで微動だにしない、という光景を目の当たりにしたので、周囲の時が止まったのかと思いきや、人々がみな手元に夢中で信号機を見上げなかっただけのことでした。たったこれだけのことにうろたえる私に、時間停止の才能はなさそうです。

 自動ドアを開けるのが苦手で、しばしば透明人間の生活を追体験しているような気分に陥ります。アルバイト先のビルとは相性がとくに悪いらしく、頭上のセンサーに手を振ったり跳ねたりしているうちに、背後から近づいてきた別の人に反応してドアが開きます。あのさびしさに慣れるときが来るとはどうしても考えられません。つまり私は透明になることにも向いていないのです。

 時間停止に透明人間、人に知られてはならない特別な力という甘いひびきにロマンをかきたてられたのは、昔の話です。子どもの私は、秘密を背負うことに憧れました。しかし成長とともに隠しごとはひとりでに増え、日常だけで満腹になったのでした。凡人でよかったといまは思います。それに、見つかって呆れられたり叱られたり、未遂に終わったり、最中に仕返しされたりするのが、いたずらの醍醐味ではありませんか。