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倉橋由美子という毒 上

 倉橋由美子のうつくしい毒にあてられて、しばらくなにも書けなくなっていました。そのみごとな鮮烈さのために疲れきっていたのです。私は、卒業論文にて取り上げようとしているこの人の書くものが、好きではありません。ですから「おすすめ」や「お気に入り」を尋ねてくれる人があると、返答に窮します。はじめて読んだときの衝撃と不愉快は、慣れればわからなくなる異臭のようなものとはことなっていたようで、いまでも私は昨年と同じ苦い顔をしながら全集をかき集めています。

 作品そのものより、むしろ倉橋由美子による自作の解説を読むことを私は目下の楽しみとしています。冴えわたる端正な毒舌に責められる趣味を持ちはじめたのです。倉橋の言うこと(たとえば、儀式や手続きのたぐいに意味を見出さないこと、まずい文章はまずいものだと断ずる態度)に私はおおむね共感を覚えますが、共感を求めるなら他人の書いたものなど読まずに日記でもつけてみずからを慰めたらよろしいと考える私にとって、あることばにうなずけることはそのことばが気に入る理由たりえないので、やはり「だから倉橋由美子が好き」とはいえないのでした。しかし強い関心を寄せていることだけは疑いようもなく、これを屈折した愛と呼ぶようになるのは時間の問題であるような気もしています。

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