ひらログ

おひまつぶしにどうぞ。

異邦人

 私には「戻りたい」と思う過去がありません。それだけならまだしも、その過去にふれるさいに過剰な攻撃性を帯びる性癖には、われながら呆れます。たとえば私は、出身校の進路実績や部活動の活躍について耳にすると、食後の胃もたれのような苦痛を感じます。

 あの場所で出会ったなかには、忘れえぬ歌や抱きしめたい友達もありますが、あの場所そのものである薄暗い校舎やセーラー服、そして学校の名前はきらいでした。私はいやな生徒でしたから、みずから選んで通っているはずの高校にただよう、しめっぽい連帯や、勘違いにもとづく自負を恥じていました。そのかえって強すぎるのかもしれない帰属意識を、私は大学に進んでも引きずっています。人々の笑い声が通りを埋めつくす、「活気ある早稲田らしい」光景にむずがゆさを覚えます。他人の、ことに同年代の群れというものに、私は滑稽な猥雑なにおいを嗅ぎとるのです。鏡を覗き込んだときに気が滅入るのと、これはよく似ています。

 結局のところ、どこへゆこうと、私が私を恥じるかぎり、私の所属するところはことごとく、私のなかで灰色のふるさとじみたものに変形するでしょう。記憶をまさぐられてもなお正気を保ち、こだわりなく昔の話を聞くようになるまでには、まだまだかかりそうです。