ひらログ

おひまつぶしにどうぞ。

店員たち

 「お砂糖はおひとつでよろしいですか?」に「ふたつください」と答えつづけていたら、紅茶にふたつ添えてくれるようになった店員さんを覚えています。「おふたつで?」と笑いかけられたく、私は特別に好きなわけでもない紅茶ばかり頼んでいました。それから、もうひとり思い出すのは、「先日もご来店くださいましたよね? いつもありがとうございます」と話しかけてくれた、また別の人です。そこで服を買ったのは、その日がはじめてでしたが、満面の笑みにつられて「ええ、よく来るんです、また来ます」と返したのでした。

 マニュアルからはみ出す瞬間を逃すまいとしながら、私はレジに並んでいます。定型の挨拶以上のことばを発したり、言い間違いにはにかんだりして、素顔をのぞかせるところが見てみたいのです。

 新しく始めた品出しのアルバイトには、マニュアルが存在しませんでした。店員の私は、はみ出そうにも、はじめから枠線に囲われていない迷子ということになります。職業的熟練に程遠い態度をかえって好まれるお客様もいらっしゃるかもしれない、という希望にすがり、やぼったい素人くささを帯びたまま、少なくともていねいな迷子であろうと思って青果売り場を歩き回ります。