ひらログ

おひまつぶしにどうぞ。

男だったらつきあいたい

 恋バナなるものについてゆけない、成長の遅い中学生でした。いちどからかわれてみたくて、試しに「好きな人いるかも」と嘘をついたところ、だれだとお調子者がしつこく尋ねてくれたのですが、いないものは答えられません。むこうもこちらもすぐに飽きてしまって、休み時間が終わらないうちに、悩める友達の内緒話を聞くだけの業務に戻りました。

 クラスメイトが熱っぽく口にする「好き」は、私にとって解読不能の暗号でした。当時はいま以上に他人のからだがきらいで(おそらく自分のからだがきらいだったせいです)、手をつなぐという行為から想像するのは不便と不愉快のふたつに尽きましたから、話し相手とは話さえできればかまわなかったのです。「あなたが男だったらつきあいたい」とよく言われました。「あなたとはつきあえない」の訳語です。英文法の授業で名前を聞くより先に、女の子たちから仮定法を教わっていました。

 これらのやりとりから学んだのは、恋についてではなく、「ここだけの話」は拡散するということと、ほんとうの望みは叶うまで口にしないのがよいということです。「聞いてないよ!」と頻繁に指摘されるのも、「言っていないからね」「じゃあいま言ったよ」などと返事をするのも、そのころ身につけた習慣のためです。