ひらログ

おひまつぶしにどうぞ。

偏愛の人

 塾講師のアルバイトをしていると、生徒からも友人からも、「学校の先生になりたくはないの?」とたずねられます。ここで授業をするのは楽しいが、と言い添えつつ、質問には「なりたくはない」と答えます。

 そこかしこに人があふれかえっている公立の学校を出た私の見てきたかぎり、「学校の先生」とは、心身ともに、他人の侵入を許さない半径のきわめて狭い人でなければつとまらない職業です。密集した机の排列や規則正しいチャイムのなかで健康に過ごせる大人だけが先生をするのです。私的な情報を預かることや、ふるまいを観察されることに、強い抵抗を感じるようでは適性がないといえましょう。私はかたい殻をもつおかげで正気を保っているような、博愛から遠い生きものですから、教壇に立つ自分を想像すると、恥ずかしさで息がつまります。子どものやわらかいこころに、大人としてことばを浸潤させるのは、私には耐えられないことです。

 人を産み育てるとか教え導くとかいったことに情熱を傾ける人があるという事実に私は関心を抱かないこともありませんが、そのいとなみ自体に対してはすこしも意欲がわきません。叱ったり励ましたりも可能なかぎりしたくなく、私の書くものにねらいがあるとすれば、せいぜい読む人を酔わせるか、くすぐることくらいです。