ひらログ

おひまつぶしにどうぞ。

人間的人間

 いちどだけ、必修科目の先生から「あなたはこのクラスでいちばんだ」という旨のメールをいただいたことがあるのですが、私はその科目が好きではありませんでした。巧妙とは言いがたいプロパガンダ以外のなにものでもなかったからです。ふまじめな私は、前方の席にて愛する友達とめいめいの考えにふけり、思いつきをてきとうな紙に書きつけては、無言で往復させていました。

 メールには「レポートは満点」ともありました。ひさしぶりに読み返すと、結びの文に「真の人間性を獲得」などと恥ずかしげもなく記されており、自身の作文であるとは信じがたく、気が遠くなりそうでした。人間性だの人間的だのといったことばは、しらふでは口にできない冗談です。締め切りが迫っていたから、やけを起こしたのだと思います。

 レポートにて扱ったのは、戦時下の人肉食をめぐる小説でした。講義をとおして確かめたのは、人を食べるのは殺人や暴行よりはるかにおぞましい禁忌である、という感覚が私には欠落しているらしいことです。他者を踏みにじる罪の優劣を争うのは、人間味にあふれた、高度なおふざけといえましょう。「人を人として尊重する」という難解な標語より、人であることをすっかり忘れてまどろむ時間のほうを私は好みます。