ひらログ

おひまつぶしにどうぞ。

 人は猫を愛せど、猫は人を愛しません。すなわち、われわれの不幸は、われわれが人に産まれたところからはじまっているのです。などと、おおまじめに説き、奇蹟によって人を猫に変えてみせ、迷子たちにも同じ将来を約束する伝道師があらわれたなら、私はきっとそのあとをつけてゆくでしょう。人ぎらいと対をなすかのように私が猫を愛しはじめたこと、これは不慮の災難でした。

 わが家に猫がいたのは、私が小学校に入るより前のことです。祖母がこまごまと世話を焼き、病気にかかったわりに長く生きたようでした。生前の彼女を、私はほとんど思い出すことができません。白い毛でできている、なまあたたかくて重たいかたまりを、図鑑の見開きを占める「ねこ」の同類として認めていたのか、いまとなっては定かでないほどです。

 当時の私は人の葬儀で泣くという経験をもたなかったのですが、しかし彼女を灰にかえした日は、ろくに面倒も見なかったくせに、取り乱し、嗚咽を漏らしました。猫から教わったのは、猫も死ぬということでした。こんなのはもうたくさん、猫はきらいだ、とそのとき決めたはずでした。幼い私は賢明でしたが、みずからに立てた誓いをやすやすと破って招いた現在の不幸を見とおすことはできなかったようです。