ひらログ

おひまつぶしにどうぞ。

口述試験にて

 院には進まないということですけれど、今後とも書きつづけたいと考えているというのは、こちらとしても嬉しく、望んでいることでもあります、あなたはこれだけの卒業論文を書いたのだから、これは、と思うものがまた書けたなら、機関誌にも載せられるでしょうし、連絡をください、ぜひとも相談に乗りたい、と、口述試験にて、主査の先生はそのようなことをおっしゃったはずです。身に余るおことばのすべてが、あまりに信じがたく、細部の記憶はその場で蒸発してしまいました。

 すなわち、なるべく自力で暮らしをいとなんでゆく道と、勉強(研究とはいいがたいのです)をつづけてゆく道とは、分断されてなどいないのだ、と先生は示してくださったのです。そのときから、就職を決めたことは、私にとっての必然と呼べる軌跡のひとつになりました。

 もうひとり、かつて私に進学をお勧めになった先生に、このことをご報告しました。書きつづけてほしい、とあのとき私が思ったように、ほかの方も思われているのです、と先生はめずらしく得意げでした。それから、あなたのことをちっとも知らないのに不躾かもしれませんけれど、とためらいがちにつけ加えられ、私自身よりはよくご存じでしょう、と私が答えると、それはそうです、とすかさずあり、ふたりして笑ったのでした。