ひらログ

おひまつぶしにどうぞ。

余白

 懐かしさをひらめかせた引き金は、さきおとといの場合、匂いでも味でもなく、楽曲の一節でもなく、ストリートビューが捉えた高架下と空の色だった。最寄駅の薄暗い裏通りが、小学生だったころの夏休みと同じ彩度をもって映り込んでいたのだ。

 時間帯は早朝と思われる。頭上が真っ青に染まり、かげろうがゆらめくまでの、ほんの少しの猶予。小学生の私は早起きで、あの白っぽくてしずかな大気が好きだった。いつまでも眠っていてかまわなかった当時は、いつまでも眠っていることを機会の損失と見なしていたのだ。家族のだれよりも早く、そわそわと布団を這い出て、ぬけがけ、ひとりじめを、した気分でいた。それでなにをするというわけでもない。濡れたような日陰に隠れながら歩き回ったり、コピー用紙に落書きをしたりした。いつでもできそうなこと、しなくてもべつによいようなことばかりするのに忙しかった。

 あのころの、大部分が余白からなる生活を、私は愛している。昔に戻りたいのではない。いまから、もういちど手にしたい。大人の庇護下にない身分、浅慮を恥じたことのある頭、行きたいところに行ける足をもったこの私が、あの余白を泳ぎたい。この途方もない夢を現実にするつもりで、こそこそと調べものにいそしむ。