ひらログ

おひまつぶしにどうぞ。

透明人間

 私はバイセクシャルであることを友人たちに公言している。しかしまだ会社では言わない。そして言ってみる前に退職するものと思われる。あれはまだ春だったか、「推しの俳優」や「イケメン」の話で周囲が盛り上がったときに、女優さんの名前しか思いつかないとか、初恋は仲間由紀恵だったとか、質問に対し、できるかぎり率直な返答をこころみはした。そのささやかなる抵抗はいかに作用したか、あるいはなにも起こさなかったか。

 私はバイセクシャルであることを隠さない。なぜか。ひとつには、それにより離れてゆくものがあるなら、そのぶん、残存する関係の質は向上するからだ。私は私をきらうものにははっきりときらわれたい。それから、なにより、誤解を受けたまま会話につきあうのは窮屈だからだ。「彼氏いる?」と他人が私にたずねるとき、女をも愛しうる女であるところの私というのは、存在をいっさい想定されていない。透明人間をするのはつまらない。なかったことにされるのは我慢ならないから、言いたいのだ。むろん言わずにすむのなら望ましい。

 私は透明でありたくないだけであって、私生活を暴かれたいのではない。ゆえにあたたかくしめっぽい土地たる会社では黙っている。たんなる訂正のつもりの発言を、「暴露」「告白」と受け取られてはたまらない。