ひらログ

おひまつぶしにどうぞ。

赤の食卓

 保守論壇の月刊誌で埋め尽くされた書棚の鎮座するリビングにて夕食をとるとき、実家を出るべきだという考えは生理的欲求にも似てきて、単に生活の手段として就職を選んだのは不誠実きわまりない失策であったが、いちどはそうせざるをえなかったのだから、無駄とはいわない、必然であった、とぼんやり思う。

 問題は、とうにはじき出された結論を実行に移さず、古びた家にとどまりつづける暮らしぶりである。現在の私は、ほんとうのところつづけたかった学生でも、せねばならないと決めたはずの会社員でもない。みずから懇願し、余白に放り出され、健康と豊かさを取り戻したのだ。ただし収入は途絶えた。

 よく目立つ表紙の真っ赤な太字、隣国への罵詈雑言を見やりつつも、滞りなく「ごちそうさまでした」を発するようになった自身がそらおそろしい。著者や読者には「正しきものならばなにを言われても傷つかぬはずなのだから、われわれの〈言論の自由〉を妨げるな」と主張するものがある。好かない。私たちが手にするのは、他人から踏みにじられない権利と他人を踏みにじらない義務のみである。だれにも他人を踏みにじる権利はない。他人から踏みにじられたものに、黙って耐えたり、笑い飛ばしたり、毅然と立ち向かったりする義務はない。