ひらログ

おひまつぶしにどうぞ。

きれいな手

 シルバーの映える、白くまっすぐな指をもつ友人と、たわむれに指輪を交換してみたところ、彼女の薬指に私のピンキーリングが嵌まった。私の手は、指の第二関節ばかりが肥大し、爪は横長といってよいほど短くつぶれ、筋肉質ながら手触りはぐにぐにとやわらかい。長年ピアノを習っているうちに、こんなふうになった。無骨なこの手を、主人の興味の赴くままに酷使される働きものを、私はみずから、いとしく撫でさする。

 才能ゆたかな恋人は肉体の素質にも恵まれ、目を引くほど長い指を備えている(私は手の大きさも指の長さもいたって平凡だ)。リストはひととおり弾けるだろう。ただし、よく似合うのはカプースチンだ。

 互いへの思いを確かめあう以前の、いわば友人関係にあった私たちは、さかんに互いの手をほめた。鍵盤の上を、思い思いに伸び、這い、踊り、きれいだったから。手のほかは、相手の容姿に言及しないのが、よそよそしさよりなれなれしさをきらう私たちのやりかただった。音楽に取り憑かれた人だから、その手なら、磨き上げた商売道具を讃えることなら、失礼にあたることもなかろう、という苦しい理屈をこしらえて、私は彼の手を飽かず眺めた。そうして「きれいだ」と打ち明けることへのためらいを、とかそうとつとめたのだった。