ひらログ

おひまつぶしにどうぞ。

猫も食わない

 ある壮大な計画を胸に秘めている。夜な夜な、リビングの書棚を占める保守論壇の月刊誌を一冊だけ手に取り、飼い猫に辛抱強く言い聞かせる──「ここで爪を研いでも、用を足してもかまわないんだよ」と。私の請う通りに猫たちがふるまったら、二冊目、三冊目に移る。そうして、いずれは、みずからの手を汚すことなく、わが家の恥部を焼き滅ぼすのだ。これほど不毛な空想もない。だから実行せずにいる。ヘイト本は猫も食わない。

 二匹の猫、ロレーンとデルフィーヌが来て、私は饒舌にも笑い上戸にもなった。以前は避けていたリビング(ここから猫を出さない決まりだ)に入り浸る日も増えた。そこで、つややかでぬくい毛むくじゃらに頬を寄せて、恋人の前でそうするように目尻をだらしなく下げることもしょっちゅうだ。猫を愛してやまない。これよりうつくしい生きものはないと、ますます強く思う。

 私は家を出て、この子らと別れる。家族の差し出す「関心」「愛情」のかたちはわが身に沿わず、いらだちと自責のあいだに私を沈める。「考えすぎ」「冷たい」と断じられたことが、これまでに何度あろうか。「きらわれるよ」と諭されたことも。他人にきらわれないことは、行動の指針たりえない。私は飼い猫ではない。猫たちに、溺愛の受け皿の座を明け渡そう。